君だけのための笑顔~翔太と梨奈

第3章

 時間が経つにつれて、翔太と梨奈の関係は次第に自然なものへと変わっていった。カフェでの偶然の出会いから始まり、お互いに少しずつ心を開いていった。彼らの会話は、もはや仕事の話題だけにとどまらず、日常の些細な出来事や気になるニュース、たまにはお互いの夢や思い描く未来について語り合うこともあった。
 その日も、いつものようにカフェに訪れた翔太は、梨奈が席に座っているのを見つけると、自然に足が向かう。梨奈はすでにノートパソコンを広げ、何かを入力しているところだった。
 「こんにちは。」翔太は微笑んで声をかける。
 「翔太さん、こんにちは。」梨奈は顔を上げ、心地よい笑顔を見せた。「今日は少し、余裕ができたのでここで仕事をしようと思って。」
 「そうなんですね。」翔太は椅子を引いて座ると、横に置かれていたカップを手に取った。「最近は忙しそうだったから、少しでもリフレッシュできるといいですね。」
 「ありがとうございます。」梨奈は少し照れくさそうに笑った。「でも、こうやってゆっくりできる時間が増えてきたので、少しは余裕を持てるようになったかもしれません。」
 翔太はその言葉を聞いて、彼女が少しずつ心の余裕を取り戻しているのを感じた。会計士として、常に細かい数字や計算に追われる日々は、精神的にも大きな負担だろう。だが、梨奈がこうして心地よく過ごしている様子を見て、翔太は心の中でホッと一息つくのだった。
 「それでも、無理しすぎないようにしてくださいね。」翔太は心配そうに言う。
 「大丈夫です。」梨奈は頷きながら答えた。「自分のペースで進んでいると、少しずつ楽になるんです。」
 その言葉に、翔太は少し考え込みながらも、彼女の言うことがよく分かるような気がした。彼もまた、自分のペースで物事を進めることが大切だと感じているからだ。二人には共通する価値観があることを、改めて感じる瞬間だった。
 「そういえば、最近新しいレシピに挑戦しているんですよ。」翔太は話題を変えて、軽く笑いながら言った。「最近は、仕事の合間にヘルシーなスムージーを作るのが楽しみで。」
 「スムージー?」梨奈は少し驚きながらも、興味深そうに聞き返す。「どんなスムージーですか?」
 「果物と野菜を組み合わせた、ちょっと変わり種のスムージーなんです。例えば、ブルーベリーとほうれん草、そして少しのヨーグルトを加えて。」翔太は嬉しそうに説明した。
 「それ、美味しそうですね。」梨奈は微笑みながら言った。「実は、私も最近は健康に気を使っているんですよ。」
 「本当に?」翔太は驚いたように彼女を見つめた。「梨奈さんがそんな風に気を使うなんて、ちょっと意外ですね。」
 「そうですか?」梨奈は照れくさそうに笑った。「でも、やっぱり体調が良くないと仕事にも影響が出ますから。」
 その言葉を聞いた翔太は、改めて彼女の真摯な姿勢に感心した。仕事に対して真面目で、健康にも気を配る。そのバランスを取ることがどれほど大切かを、彼女はしっかりと理解している。
 「じゃあ、今度作ったスムージーを持ってきますよ。」翔太は軽い調子で言った。
 「本当ですか?」梨奈は嬉しそうに目を輝かせた。「それは楽しみですね。」
 二人の会話は続き、しばらくしてから、梨奈がふと口を開いた。
 「翔太さん、実は最近少し考えることがあって…。」彼女は少し言葉を選ぶようにしてから、続けた。「私、今後どういう方向で仕事を進めていくべきか、少し迷っているんです。」
 翔太はその言葉を聞き、思わず真剣に彼女を見つめた。「迷っている?」
 「はい。」梨奈は静かに頷いた。「今の仕事はとても大切だと思っているけど、私のやりたいことが本当にこれで合っているのか、時々疑問に思うんです。」
 翔太はその言葉に、少し考え込んだ。梨奈は一見、しっかりとした人物に見えるが、内面では自分の進むべき道に迷いを抱えていることを、彼女自身が明かしてくれたのだ。
 「でも、まだその答えを出さなくてもいいんじゃないですか?」翔太は優しく答えた。「焦らず、少しずつ自分が何をしたいのか、見つけていけばいいんですよ。」
 梨奈はその言葉に少し驚いたようだったが、同時に安心したような表情を浮かべた。「そうですね。翔太さんの言う通り、急がなくてもいいんですよね。」
 「ええ、焦らずに。」翔太は微笑みながら答えた。
 その日のカフェでの会話は、どこか心が軽くなるような時間だった。お互いに少しずつ心を開き、共有する時間が増えていくことで、二人の間には自然な絆が芽生えていった。まだお互いに分からないことも多かったが、確実にその距離は縮まっていっていた。

 翌日、翔太はいつものカフェに立ち寄った。仕事の合間に来ることが多いこのカフェは、彼にとってほっと一息つける場所だった。朝の忙しさから解放されるひととき、窓際の席に座ると、外の景色が見える。しばらくして、カフェのドアが開き、梨奈が入ってきた。翔太は顔を上げると、すぐに彼女を見つけた。
 「おはようございます。」翔太が手を挙げて声をかけると、梨奈は少し驚いた様子で笑顔を見せた。「あ、おはようございます。」
 彼女はカフェのカウンターでコーヒーを注文し、翔太の方に向かって歩いてきた。「今日はちょっとだけ時間が空いているので、こちらに来ました。」
 「それは良かった。」翔太は椅子を引いて、梨奈が座るのを待った。「最近、忙しそうだったので、少しでも休めるといいですね。」
 梨奈は座ると、軽くため息をつきながら言った。「ありがとうございます。でも、最近は少しずつペースを取り戻しつつあります。あとは、自分のやりたいことに対して、どう進んでいくかが課題ですけど。」
 翔太はその言葉をじっと聞きながら、彼女が抱えている葛藤を感じ取った。仕事に対して真摯に取り組んでいる姿勢は尊敬に値するが、彼女が何かを模索している様子が見て取れる。それを支えてあげることができたら、と思うと同時に、翔太は少しだけ思い悩む気持ちも湧いてきた。
 「梨奈さん、何か考えがあるんですか?」翔太は静かに尋ねた。
 梨奈は少し沈黙した後、ゆっくりと答えた。「実は、会計士として働いてきたけれど、最近、もう少し広い視野で何かをやってみたいと思うようになったんです。でも、どうすればいいのかが分からなくて…。」
 翔太は彼女の真剣な表情を見つめ、少しだけ心が痛んだ。彼女は自分の気持ちに正直に向き合っている。それは、彼女がどれだけ自分の未来を真剣に考えているかを物語っていた。
 「もしよければ、少し話してみてください。」翔太は優しく言った。「どうしたらいいか、手伝えそうなことがあれば、何でも言ってください。」
 梨奈は翔太の言葉に少し驚いた様子を見せたが、やがて深く息を吸ってから、ゆっくりと話し始めた。「実は、数字だけでなく、もっと人と関わる仕事をしてみたいと思っているんです。以前から少しずつ興味があったんですが、どうしても今の仕事に集中してしまって。だけど、心の中では本当にやりたいことに対して勇気が出ないんです。」
 翔太は真剣に彼女の話を聞きながら、少し考えた。「人と関わる仕事って、具体的にはどんなものですか?」
 梨奈は少し考え込みながら言った。「例えば、ボランティア活動や、教育関係の仕事、人をサポートするような仕事です。数字を扱うのも嫌いではないけれど、やっぱり人との接点がないと、心が満たされない気がして。」
 翔太はその言葉を聞き、少しほっとしたような気持ちを抱いた。彼女が自分の心の声に耳を傾け、何かを模索していることに対して、応援したいという気持ちが湧いてきた。
 「自分が本当にやりたいことを見つけるのは、簡単じゃないけれど、梨奈さんがその道を考えているのなら、きっと素晴らしいことが待っていると思いますよ。」翔太は温かい言葉をかけた。「焦らず、少しずつ進んでいけばいいんじゃないですか?」
 梨奈は少し照れたように笑った。「翔太さん、ありがとうございます。そう言ってもらえると、少し気が楽になります。」
 翔太はその笑顔に、心の中で安堵を感じた。彼女が少しでも前向きに思えるようになってくれたことが、彼にとって嬉しいことだった。
 「でも、まだ一歩踏み出すのが怖いです。」梨奈は小さく呟いた。
 「それは誰でも同じです。大切なのは、少しずつでも踏み出してみることですよ。」翔太は自分の経験を少しだけ語った。「僕も最初は自分の道を決めるのに迷ったけれど、一歩踏み出してから、少しずつ道が開けていった気がします。」
 梨奈はその言葉に静かに頷いた。「翔太さんの言う通りですね。」
 その日の会話は、どこか心温まるものだった。翔太と梨奈は、互いに励まし合い、少しずつ前に進んでいくことを決心した。それは、二人の関係がただの友人以上の何かになりつつある兆しでもあった。
 そして、翔太は心の中で確信した。自分が梨奈を支えることで、彼女の未来がもっと輝くものになると信じていた。

 第3章終
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