この恋、温め直しますか? ~鉄仮面ドクターの愛は不器用で重い~
「さっきは瀬田准教授から助けてくださってありがとうございました」

「同じことを言わせるな。別に俺は……」

 高史郎が苦笑いでごまかそうとするのを環は強い眼差しで遮った。

「聞いたんです。院長は瀬田准教授を呼んでいなかったって。お礼くらい……言わせてくれてもいいじゃないですか」

 そう訴えても彼はやっぱり頑固だった。

「……君を助けるためじゃなかった。俺は彼のああいう行為が気に食わない、それだけだ」

(下手くそな嘘)

「でも、准教授ですよ。心証を損ねたら要先生の立場が悪くなります」

 いまいち納得はしかねるが医師の出世は実力だけでは決まらない。上に気に入られることは、ある意味で民間企業以上に大事なのだ。

「俺は医局の出世争いには興味ないよ。そもそも臨床医をずっと続けるかもわからないし」

 寂しげに響くその声が、夜の街に溶けていく。

 そういえば先ほど若手のドクターたちが高史郎は時折、患者からクレームをもらうことがあると言っていた。

 手術に関しては天才と謳われている彼にも悩みはあるのかもしれない。

 環の想像を補完するように高史郎がぽつりとこぼす。
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