この恋、温め直しますか? ~鉄仮面ドクターの愛は不器用で重い~
 高史郎がすまなそうな顔をする必要はまったくないのに、彼は納得できないようだ。

「言わずとも君なら察してくれると思うが……俺は女性が好む店などひとつも知らない。リクエストをしてもらわないと困る」

「その台詞、そんなキリッとした顔で言うものじゃないと思いますよ」

(ていうか、なにか食べに行くことは確定なの? ふ、ふたりで?)

 帰りがけになにか食べて帰るつもりではあった。でも高史郎と一緒に……は想定外すぎる。

「――嫌か?」

 まっすぐな彼の眼差しが環の本音を暴き出す。

(なんでだろう? 全然嫌じゃない)

「行きます。おなか空いたので」

 嬉しさがあふれすぎないよう、そう意識したせいで妙につっけんどんな口調になってしまった。

でも彼は「そうか」と優しくほほ笑んでくれた。

 胸がギュッと痛いほどに締めつけられる。

 この甘い痛みは、かつて彼に恋をしはじめた頃に何度も味わった覚えがある。

 とっくに賞味期限が切れたはずの恋……なのに無意識に〝今度こそ〟を期待してしまう。

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