この恋、温め直しますか? ~鉄仮面ドクターの愛は不器用で重い~
 環がリクエストした店は和、洋、中とバラエティ豊かな料理にデザートまでをカジュアルに楽しむことができる……ようするにファミレスだ。

 入口前で高史郎が顔をしかめる。

「まぁたしかに、大学病院の勤務医は開業医のような派手な暮らしぶりはできない。けど、もう少しいい店に行ける程度の稼ぎはあるぞ?」

 どうやら環が遠慮をしたと思われたらしい。

「そういう意図はないですよ。私はおなかが空いているけど、要先生はもう食事はいらないでしょう? ちゃんとした店だとふたりぶん頼まないといけないでしょうから」

 ファミレスなら高史郎はちょっとしたつまみとドリンクバーだけでも許されるし、ちょうどいいと考えたのだ。

「なるほど。環は短い時間にあれこれと配慮ができて……すごいな」

 感心されるほどのことでもないのに高史郎は真剣に尊敬の眼差しを注いでくる。

 環は苦笑して続けた。

「あと私、ここのファミレスわりと好きなんです」

 彼は覚えているだろうか? 

 かつての自分たちがドリンクバーだけで何時間も映画談義を繰り広げたあの店がここと同じ看板を掲げていたことを。
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