この恋、温め直しますか? ~鉄仮面ドクターの愛は不器用で重い~
 口ではそう言いつつもこちらを見る彼の瞳はどこか楽しげで、ふたりで意味もなくクスクスと笑い合った。

 おなかを十分に満たしてから店を出る。

 人も車も少ない裏通りを選んだので、辺りは心地よい静寂に包まれていた。柔らかな夜風が環の頬を撫でていく。

「すっかり春ですね~」

「そう思っている間に夏になるけどな」 

「あはは、たしかに。あっ、木蓮が咲いてますよ」

 設計事務所かなにかだろうか。センスのいい凝った建物の脇に木蓮の木が植えられていた。

「桜もいいけど、木蓮が運んでくる春の香りもいいですよね」

 夜の闇に映える真っ白な花を見あげて環がほほ笑むと、彼もつられたように視線を上に向けた。

「白い花は凛としていて何物にも染まらない感じがいいな」

「要先生は白い色をそういうふうにとらえるんですね。一般的にはどんな色にも染まることができる……って言われませんか?」

 環も世間と同様に白は素直さや無垢さを表す色だと思っていたから、高史郎の解釈を新鮮に感じた。

「あぁ、そういう考え方もあるのか。けど俺の目にはこの木蓮は気高くかっこよく映るな。変だろうか?」

 環はブンブンと力強く首を横に振った。
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