この恋、温め直しますか? ~鉄仮面ドクターの愛は不器用で重い~
 膝の上で握られた彼女のこぶしが小刻みに震えている。

 今の言葉のなかに彩芽の苦しかった胸のうちが凝縮されていたように思う。環が想像するよりずっと彼女は悩んでいたのだろう。

(もっと早く、ちゃんと話を聞いてあげるべきだった)

 仮にもこの職場において自分は彼女の上司なのに。

 今さら気がついてももう遅い、自分の失敗はいつもこれだ。

 苦いものが胸に広がる。

「私の彼、すごくエリートなんです。自分が稼ぐから私には専業主婦をしてほしいって言ってくれて」

 まるで捨て台詞のように彩芽は吐き捨てる。

「私の人生にはこの会社より彼との関係のほうが大事ですから」

 なにひとつ言葉が出てこなかった。

 苦悩のすえに出した彼女の結論を間違っているなんてとても言えない。そもそも、なんの助力もできなかった自分になにかを言う権利があるとも思えなかった。

 翌日の午後、環は緑邦大病院で高史郎と面会した。

「ロパネストラーゼの導入について正式に検討を始めたよ」

 それはチームの全員がずっと待ち望んでいた嬉しい一歩だった。

「ありがとうございます」
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