この恋、温め直しますか? ~鉄仮面ドクターの愛は不器用で重い~
「あぁ、今度こそ帰さない」

 高史郎が暮らす部屋は緑邦大病院からもほど近い静かな住宅街のなかにあった。

 外壁はチョコレート色、派手さはないけれど落ち着いた内装の素敵なマンションだ。

 鍵を開けて環をなかにエスコートしたあと、高史郎はそう間を空けずに環の腰を引いて抱き締めた。

 シャンプーか柔軟剤の香りだろうか。森林を思わせる温かみのある匂いが環の鼻をかすめる。
 
 どう見てもアウトドア派には見えないのに、意外としっかりとした胸板の厚みに鼓動がドクドクと騒ぎ出す。

 長い指が環の顎をすくい、視線がぶつかる。

「俺はまた急ぎすぎているか? 不愉快だったら言ってほしい」

 かつての記憶を彼も忘れていないのだろう。注意深く気遣うように環の表情を確認した。

 普段の高史郎はあまり男性の生々しさを感じさせない人だ。

 そんな彼が見せる雄の色香に頭がくらりとして、ひるんでしまいそうになる。

(でももう逃げたくない。ちゃんと向き合うって決めたから)

 環は深呼吸をひとつして、今の感情すべてをさらけ出した。

「私、初めてなんです。要先生のことが大好きだから、したいって思います。だけどそういう行為はまだ少し怖くて……」
< 152 / 222 >

この作品をシェア

pagetop