この恋、温め直しますか? ~鉄仮面ドクターの愛は不器用で重い~
五章 面倒なのは恋か女か
五章 面倒なのは恋か女か 


 恋がうまくいくと、それだけで世界がバラ色になる。環はいつも以上に張りきってバリバリと仕事をこなしていた。

「あれ、速水さんじゃないか?」

 緑邦大病院の敷地内にあるコンビニで顔見知りのドクターに声をかけられる。

 といっても、彼はこの病院のドクターではない。環が昨年度まで担当していた開業医の先生だ。

「先生、ご無沙汰しております」

「そういえば君は今、ここの担当なんだってね。大出世じゃないか、おめでとう!」

「いえいえ。先生は……もしかしてお身体の具合でも?」

 彼は医者の不養生という言葉がぴったりの生活を送っていて、お酒とタバコが大好きなのだ。

 もしや患者として病院に来たのではと心配して尋ねてみたが彼は苦笑して首を横に振る。

「僕はこう見えて頑丈だから心配無用だよ。ここで働く恩師に用があってね」

 そういえば彼も独立前はこの病院で勤務医をしていたと聞いたことがある。

「それは安心しました。でも、お酒とタバコはもう少し控えたほうがいいと思いますよ」

「あはは。僕も患者にはそう言うんだけどね~」

 多忙なドクターを無駄話で引き止めるわけにはいかないので環は適度なところで雑談を切りあげ「それじゃあ、私はこれで」と頭をさげる。

「あ、待って。もうひとつだけいいかな?」

 やや迷うそぶりを見せてから、彼が話し出す。
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