この恋、温め直しますか? ~鉄仮面ドクターの愛は不器用で重い~
 彼の座る椅子がギッと不快な音を立てる。

 武人が背もたれに踏ん反り返るような姿勢をとったからだ。立っている環に、下から挑発的な視線が注がれる。

「ライバルを心配してくれるなんて、速水さんは余裕だなぁ」

 あまり感じのいい声音ではない。からかうような、あざけるような色がにじむ。

「ライバルだけど同志。そう言ってくれたのは菊池さんじゃないですか」

「ま、そうだね」

 彼はすぐにいつもの明るい表情を取り戻したけれど、環の心中に不穏なさざ波が立つ。

 人の秘密をのぞいてしまったような、そんな気分になった。

 翌日。

 今日は朝から複合コピー機の調子が悪く、リース会社の営業さんが確認にフロアまで来てくれていた。

 彼とのやり取りは彩芽がしてくれている。

 環に注意されて以来、彼女は一度も遅刻していないし勤務態度にも気になる点はない。

 根は真面目な子なので派遣契約の期間中はしっかりやろうと思い直してくれたのかもしれない。

「こ、これで問題ないとは思いますが不具合が続くようなら機器ごと交換しますので」

 リース会社の営業さんは若手の男性で、おとなしい性格なのかオドオドした様子で彩芽に頭をさげている。
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