この恋、温め直しますか? ~鉄仮面ドクターの愛は不器用で重い~
 近くに座って弁当を食べている看護師たちのお喋りが高史郎の耳にも飛び込んでくる。

 瀬田のセクハラに対する不満をぶちまけているようだ。

 本人は不在とはいえ同じ科の医師である高史郎がいるのに意外と大胆だ。

 まぁそれだけ腹に据えかねているということだろうか。

(環は彼の担当でもあるんだよな)

 彼女は別に高史郎専属のMRというわけではない。

 脳神経外科、外科のドクター、それから薬剤部の面々とも面会をする。

(ほかの先生はともかく、瀬田准教授は心配だな)

 思い返してみれば環を見る彼の目には気持ちの悪い色欲がにじんでいる気がした。

 そんな思いがあったせいか今日はやけに瀬田の動向を意識してしまう。

 高史郎が手術を終えて医局に戻ると、瀬田とスーツ姿の男が立ち話をしていた。

 アスティー製薬ではない別のところのMRだ。

「う~ん。君とは長い付き合いだし熱意はわかるんだけどね」

 言葉こそ丁寧だが瀬田の表情は少々面倒くさそうだ。お断り、と言いたいところなのだろう。

 だがMRの彼も負けじと食いさがっている。

(MRというのも大変な仕事だよな)
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