この恋、温め直しますか? ~鉄仮面ドクターの愛は不器用で重い~
 そんなことを思ってふたりの横を通り過ぎようとしたとき、瀬田がニヤリと含みのある笑みを見せた。

「まぁ、ここだけの話だけど……アスティー製薬の女性MRは器量がよくてねぇ」

 アスティー製薬の女性MR。その単語に高史郎はぴたりと足を止めた。

 すっかり声をひそめてしまった彼の話に耳をそばだてる。

「実は今夜も……いや、なんでもない。まぁ私からのアドバイスとしてはだね、君のところもまずは美人MRでも採用してみたらどうかな」

 瀬田はまだ四十代のはずだが頭のなかはかなり古い。昭和の遺物のような人間だ。

 ヘラヘラの品のない笑い声をあげる彼に高史郎は激しい嫌悪を覚える。

(今夜? なにかあるのか?)

 たった今聞いた瀬田の話を無視してはいけない。

 そう訴える警鐘音が高史郎の頭に鳴り響き、不吉な予感に胸がざわめいた。

 瀬田がかわいがっているドクターのひとりに話しかけ、さりげなく彼の今夜の予定を探ってみる。

「瀬田先生は今夜、お忙しいだろうか? ゆっくり相談したい件があるんだが」

「あぁ、今夜はダメでしょうね。東京駅近くのホテルに行くんだと思います」
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