この恋、温め直しますか? ~鉄仮面ドクターの愛は不器用で重い~
 高史郎にとってはありがたいことだが、なぜ瀬田の予定にそんなに詳しいのだろうか。

 やや疑問に思っていると彼が愚痴をこぼし出す。

「准教授は僕を秘書かなにかだと思っているみたいで。そのホテルにバーは入っているか? 値段はどの程度か?って、そのくらいは自分で調べてほしいですよ」

 気持ちはよくわかる。しかし、これに関しては瀬田だけが特別でもない。

 医局で出世すると王さま気分になって若手のドクターをこき使う人間はとても多い。

 申し訳ないが彼の愚痴は聞き流し、高史郎は話を本題に戻した。

「東京駅のホテル……今日は講演や研究会の予定はないよな」

「バーを調べろって言ってたくらいだから奥さんと食事でもするんじゃないですか? それかお気に入りのキャバクラ嬢かな」

(いや、さっきの口ぶりから考えると一緒に行くつもりなのは……)

 東京駅は環の勤めるアスティー製薬の本社とも近い。

「とにかく今夜は無理だと思いますよ」

 彼はそう結論づけて話を切りあげる。

「ありがとう。なら明日にするよ」

 なんでもない顔をよそおいながらも高史郎の胸のざわめきはますます大きくなっていた。

◇ ◇ ◇

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