この恋、温め直しますか? ~鉄仮面ドクターの愛は不器用で重い~
「つまり、このあとのことも男と女の間にはよくある……」

「ま、待ってください。准教授がなにをおっしゃりたいのか、私にはさっぱり」

 瀬田はニヤニヤと目を細める。

「もう演技はいらないよ。待ち合わせ場所にホテルを指定したのは君だろう。さすがアスティー製薬のエースは賢いなと感心したよ」

「いや、あの本当に……」

「君がここまでの覚悟を持ってくれているなら新薬の件は悪いようにはしない。私に任せてくれ」

 その台詞でようやく瀬田がなにを考えているのかわかった。

 つまり彼は環が枕営業――身体を使ってでも新薬の導入を確実なものにするためにここに来たのだとでも思っているらしい。

 もちろん環にそんな思惑はまったくないし、彼がこのホテルにいること自体が想定外。

(どういうこと? なにが起きているの?)

 混乱する環の眼前に瀬田が迫ってくる。

「今さら怖いだなんて、初心なふりをするのはダメだからね」

 セクハラ対応くらい慣れたもの、そう思っていたけれど……。

 ギラギラと異様な光をたたえた瀬田の目に背筋がゾッとして本能的な恐怖が立ちのぼってくる。
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