この恋、温め直しますか? ~鉄仮面ドクターの愛は不器用で重い~
 相対するふたりの構図は飢えた獣と逃げ場を失った草食動物といったところ。

 その状況に鋭い声が突き刺さる。

「瀬田准教授!」

 背中で聞いたその声に、環はホッと安堵して全身が緩んだ。

(どうして私のピンチにはいつもいつも彼が来てくれるんだろう)

 駆けてきた高史郎が環をかばうように前に出て、鬼の形相で瀬田をにらみつける。

「……ご自分の地位が危うくなっているのを理解していますか?」

「みょ、妙な勘繰りをしないでくれ。偶然会ってあいさつをしていただけだ」

 自分でも苦し言い訳だとわかってはいるのだろう。

 彼は高史郎が重ねてなにか言うより先に脱兎のごとく逃げてしまった。

「大丈夫か?」

 そう尋ねる高史郎の顔のほうがよほど青白いように思えた。

 環がゆっくりとうなずくと、高史郎は「場所を移してからゆっくり話を聞かせてくれ」と提案してきた。

 先日の講演会のようなイベントがあるならともかく、そうではないときにドクターとMRがホテルにいるのは褒められた行為じゃない。

 彼の主張はよくわかるが環にはまだここを離れられない事情がある。彩芽を捜さなければ。
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