この恋、温め直しますか? ~鉄仮面ドクターの愛は不器用で重い~
 そのあとも高史郎は何度も何度も電話をくれて、そのたびに環はスマホに手を伸ばしかけた。

 「助けて」と彼にすがってしまいそうになる自分が怖くて、五回目の着信のあとはスマホの電源を落としてしまった。

 翌日。来るなとは言われていないので普通に出社したものの、まさに針のむしろという状況だった。

 トラブルの詳細は伏せられているようだったが緑邦大病院のチーフをおろされ代わりの仕事も与えられていない。

 その処遇から、環がなにかやらかしたということは誰もが察したのだろう。 

「いったいなにをしたんだ?」という好奇の眼差しが痛いほどに注がれる。

 内々で処理するとはいっても、人の口に戸は立てられない。

 〝枕営業〟の噂が広まるのもきっと時間の問題だろう。

 部長をはじめとした上層部、武人、彩芽と話を知っている人間は決して少なくないから。

(それに菊池さんが黙っていてくれるとも思えないし)

 あることないこと噂を広めて環を再起不能にする。彼ならそこまでやるだろう。

 この業界は決して広くない。環のMRとしての未来は閉ざされたも同然だった。

『なにがあったんですか? 力になりますよ』
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