この恋、温め直しますか? ~鉄仮面ドクターの愛は不器用で重い~
『新薬の普及には速水チーフがいないとダメですよ。会社はなにを考えているんですかね?』

 緑邦大病院チームのみんなだけはそんなふうに心から心配してくれたけれど、迷惑をかけているのになんの説明もすることができず曖昧に言葉をにごすだけ。心苦しくてたまらなかった。

(仕事がないと、一日ってとんでもなく長いんだな)

 今日の学びはそれだけ。

 終業のベルと同時に会社を出られるなんてめったにないことなのにちっとも嬉しくない。

 いつよりずっと明るい夕空からポツンと雨粒が落ちてくる。

 雨予報は出ていなかったから傘は持っていない。

 不運は不運を呼ぶのだろうか、そんなことを考えてますます落ち込む。

(仕方ない。駅まで走るか)

 そう思って前を向いた瞬間、環は目を見開いた。

(な、なんで……)

「環」

 逃げ出そうとした環の行く手を阻むように高史郎が立ちはだかる。

「ど、どうして」

 彼の顔を直視できない。

 今優しくされたらきっと甘えてしまう。

 環は慌てて顔を背けた。

「君が電話を無視するからだろう。あんなことがあった直後に連絡を取れなくなった恋人を心配してなにが悪い?」
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