この恋、温め直しますか? ~鉄仮面ドクターの愛は不器用で重い~
 雨が降っていてくれてよかった。

 この(とばり)がきっと隠してくれるから、言葉とは真逆の思いがあふれてグチャグチャになった自分の顔を。

 長い沈黙のあとで彼の深いため息が落ちる。

「君は本当に面倒な女だな。――わかった」

 彼の言うとおりだ。

(最初から最後まで、馬鹿で面倒な女でごめんなさい)

 くるりと彼が踵を返す。

 もう迷いはないのだろう。スッとぶれない背中が降り続ける雨のなかに消えていった。

「――ふっ、うっ」

 両手で口元を覆ってもこらえきれない嗚咽が漏れる。

 雨か涙かわからない冷たい滴がハラハラと頬を流れた。

 優しいほほ笑み、他愛ない会話、肌を重ねた甘いひととき。

 やっと手に入れた、大切な大切な宝物が……震える指先をすり抜けて淡雪みたいに消えていく。

 無理だとわかっているのにどうしても繋ぎ止めたくて、未練がましく手を伸ばした。
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