この恋、温め直しますか? ~鉄仮面ドクターの愛は不器用で重い~
 きっと生物としての本能なのだろう。環は全身を硬くすることで古傷が訴えかけてくる鈍い痛みから身を守っていた。

「新薬のロパネストラーゼなんですが、確認しておきたい点がいくつかありまして……」

 彼からの質問は三つ。そのうちのふたつはタブレッドですぐに情報を出して説明することができたけれど、もうひとつは社内に戻り開発チームの話も聞かないと答えられないものだった。

「社に戻ったらすぐに確認して、ご報告します」
「よろしく」

 無愛想に言って、彼は環から視線を外す。薬について話している間は饒舌だったが、場を繋ぐための雑談などをする気はないようだ。

(あいかわらずだな)

 彼は昔からこうだった。愛想笑いと世間話が大嫌いで、顔はかっこいいのに偏屈なおじいちゃんみたい。なにを考えているのかさっぱり読めない。

(この反応は……私のことを忘れているってこと?)

 高史郎は環を見ても、顔色ひとつ変えなかった。でも、彼が昔の知り合いに会ったくらいで目を丸くしたりオロオロしたりするとも思えない。

(彼の性格なら、覚えていたとしても無反応な気がする)
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