この恋、温め直しますか? ~鉄仮面ドクターの愛は不器用で重い~
 いったいどっちなのだ? そして、自分はどういう態度を取るべきなのだろう。

 自分ばかりヤキモキしている状況に環はかすかにイラ立った。

(読めない男なんて嫌いだわ。はっきりしてくれないと今後の仕事にも支障が……)

 こちらの葛藤を知ってか知らずか、高史郎は平然とした表情で自身の腕時計に視線を落とす。

「ほかに用がなければ俺はこれで」

 スッと立ちあがった彼に、思わず呼びかけた。

「要先生!」

 温度の低そうな黒い瞳に射貫かれる。

(えっと、とっさに呼び止めちゃったけどなにを言えばいいのか……。いや、やっぱりはっきりさせておこう!)

 新薬普及のために、彼は避けては通れない人物。仕事に影響が出そうなしこりはさっさと取り除いてしまいたい。

「あの、要くんだよね? 私、緑邦大の映画サークルで一緒だった速水環です」

 ここはふたりが通っていた緑邦大学の附属病院だ。彼は医学部で自分は薬学部。環は病院の薬剤部ではなく民間企業に就職したが、高史郎はそのまま系列であるこの病院に就職したのだろう。

 高史郎はいぶかしげに目を細めた。

「名前は今しがた聞いたばかりだが。なぜ二度言うんだ?」
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