この恋、温め直しますか? ~鉄仮面ドクターの愛は不器用で重い~
 彼がそうしてくれるなら自分もすべてを水に流し、高史郎を大切な営業相手のひとりとして扱う。その心づもりはできている。

 しかし、彼は眉間のシワをより深くして首をひねった。

「互いに覚えているのに忘れたふりをする? その茶番になんの意味がある?」

 あいかわらずの朴念仁だ。気まずい過去をなかったことにしよう。至って単純な要望をなぜ汲み取ってくれないのだろう。環はグッと指先を握った。

(十年前の私を問い詰めたい。この面倒くさい男の、いったいどこにときめいたわけ?)

 はぁと彼がため息を落とす。正直、ため息をつきたいのはこっちのほうだ。

「まぁ、君がそうしろと言うのなら構わない。あいかわず勝手で面倒な女性だな、環は」

 彼が呼ぶ自分の名に心臓がビクリと跳ねる。断じて、ときめきではない。もっと不穏なざわめきだ。

「初対面なのに名前で呼ばないでください、要先生」

 仕事中にはまず出すことなどない、冷ややかな声を返してしまった。
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