この恋、温め直しますか? ~鉄仮面ドクターの愛は不器用で重い~
 院内の殺風景な廊下を早足で歩いていると、反対側からやってきた教授に呼び止められた。

 大学病院の教授は権威主義のいけ好かない人物が多いが、彼は穏やかな好々爺だ。研修医時代からなにかと世話になっている。高史郎は自分としては珍しいほど丁寧に頭をさげた。

「聞いたよ。例の手術、見事に成功して術後の経過も順調だってね」

 例の手術とは一週間ほど前に高史郎が執刀したオペのことだ。世界的に見ても難しい症例で成功確率は極めて低いと言われていた。

 本来ならばまだまだキャリアの浅い自分が執刀できるようなオペではなかったのだが、ほかでもないこの教授が自分を推薦してくれたのだ。

「ありがとうございます」
「いやぁ、〝緑邦のブラックジャック〟の呼び名も伊達じゃなくなってきたな」

 ブラックジャック、無免許ながら腕は天才的という医師が主人公の漫画だ。高史郎は漫画を嗜まないが、この作品は祖父の愛読書だったので読んだことがあった。

「……私は正式に医師免許を持っていますが?」

 闇医者と一緒にされるのは心外だ。高史郎は眉をひそめるが、教授はそれ以上に渋い顔を返してくる。
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