この恋、温め直しますか? ~鉄仮面ドクターの愛は不器用で重い~
 謙遜ではない。言葉どおり、焼くだけでオーケーな状態で用意されていたものをもう少し食べやすいようにカットしただけなのだ。

 親友の夫も含め男性陣は三名。みな、紳士的でいい人たちだ。

(でも仮に仲良くなったとしても私の秘密を知ったらきっと……)

 プライベートで異性を前にすると、環の思考はいつも同じところに行き着く。

 結局、卑屈なことばかり考えている間にこの素敵で楽しい、もしかしたら恋が生まれる可能性だってあった二時間半が環から遠ざかっていった。
 
「だからね! こじらせすぎなのよ、環は」

 男性陣と別れて、反省会と称して女三人でやってきた居酒屋。

 オーバーサーティーともなると、昼も夜もお肉を食べる元気はないので『お刺身がおいしい』との口コミに惹かれてこの店を選んだ。

 客層は中年男性がメインで写真映えする内装ではまったくないが、味は評判どおりにおいしい。脂のりのいいシメ鯖がとくに絶品だ。

 生中のジョッキを片手に渋い顔を向けてくるのは、今日のバーベキューを企画してくれた(なか)(むら)(あさ)()。環とは大学時代からの親友。
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