この恋、温め直しますか? ~鉄仮面ドクターの愛は不器用で重い~
 目を見開く環とは対照的に、彼女はにんまりと目を細める。

「だから、その彼と寝てみたら?ってこと」
「な、な、な」

 突飛すぎる提案に環は絶句し口をパクパクさせるばかり。

「不完全燃焼だからくすぶり続けるのよ。綺麗に灰になれば、案外さらっと忘れられるかも。ついでに処女コンプレックスも解消できて一石二鳥」

「へ、変なこと言わないでよ。恋心は十年前にとっくに燃え尽きたから」
「ふぅん。そんなに焦ってかえって怪しいけどなぁ」

 最寄駅から自宅マンションまでの徒歩十分の道のり。

 日曜日の夜だからか辺りはひっそりと静まり返っていて、紫紺の空に浮かぶ月がこの場の主役と言わんばかりの大きい顔をしている。環はふと立ち止まり、目線をあげた。

(あの夜も満月だったな)

 歩道橋の真ん中に立つ自分の隣には、彼がいた。

 初めて繋いだ手のぬくもり、とびきりレアな彼の笑顔、近づく綺麗な唇に心臓が張り裂けそうになったこと。

 麻美のおかしな発言のせいか、ひとコマひとコマがいやに鮮明な像を結ぶ。
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