この恋、温め直しますか? ~鉄仮面ドクターの愛は不器用で重い~
 笑顔と呼べるほど社交的ではないけれど、かつてよりはずっと柔らかい表情で環を見る。

「うん」

 彼の隣、でもひとりぶんのスペースを空けた場所に腰をおろす。

(このひとりぶんの隙間はきっと永遠に埋まらないだろうな)

 そもそも自分が埋めたいと思っているのかもよくわからない。彼とのこの距離感は、今の環にとってはすごく居心地がよかったから。

「勉強、大変?」
「いや、この本はどっちかっていうと趣味」

 勉強に使う医学書と趣味の医学書、いったいどう違うのだろう。少し興味があるけれど聞いたところで理解はできないかもしれない。

「要くんって何科を志望するとか、もう決めてる? あ、そもそも臨床医希望?」

 医学部生の進路は大きくふたつある。病院などで患者の治療に当たる臨床医になるか、大学に残って研究を続けるかだ。

 絶対数でいえば圧倒的に臨床医のほうが多いが彼の性格だと研究者の可能性もありそうだ。

「……まだ決めかねてる。そっちは?」

 彼が環の進路を尋ねているのだと理解するのに少し時間がかかった。

 世間話の嫌いな彼が自分の将来に興味を持ってくれているらしいというのが少し嬉しい。
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