この恋、温め直しますか? ~鉄仮面ドクターの愛は不器用で重い~
 だから、後方で手を振る優実がどんな顔をしているかなんて……気にかける余裕もなかった。

『不感症』
『俺は絶対無理。不感症の女なんて外れもいいとこじゃん』
『つまんないって感じ?』

 先ほど聞いたばかりの台詞。彼らの声がいつの間にか高史郎の声へとすり替わる。

(ち、違うよね。要くんはそういうこと言うタイプじゃないし……)

 そう信じたいけれど優実ははっきりと『要くん』と口にしていた。彼女が自分に嘘をつく理由はないだろう。 

 環のなかの悪魔がささやく。

(あの夜、はっきり『帰ってくれないか』と言われたでしょう)
(連絡するって約束も守ってもらえなかったし)
(あまりに反応悪いから、なしって思われたんじゃない?)

 聞きたくないとばかりに耳を塞いだけれど、自分が作り出した声だからそんな防御策は意味をなさない。

 恥ずかしくて、悲しくて、悔しくて……。

(ダメだ。今日はもう帰ろう)

 環にしては珍しく授業をサボることへのためらいも生まれなかった。校舎に背を向けて大股で歩き出す。
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