この恋、温め直しますか? ~鉄仮面ドクターの愛は不器用で重い~
 彼への恋心は十年前に燃え尽きてプラスの感情はなにひとつ残っていないはずなのだから。

 いやに必死になって自分にそう言い聞かせる。 

(忘れられない男、なんかじゃないし!)

「どうした? 具合でも悪いのか?」

 環の動揺と混乱を彼はそんなふうに解釈したらしい。気遣うような声音でそっと顔をのぞき込んでくる。

 魅入られてしまいそうに美しい瞳、ほのかな色気の漂う口元。

 あの頃から彼はとても整った顔立ちをしていたけれど、余裕と渋みが加わった今はさらに魅力を増している。

〝男は三十代から〟という説は彼にかぎっては間違いなく正しそうだ。

「全然、まったく問題ありません」

 かわいげのない返事をして、環は焦ったように視線を外す。

 自分は決してイケメンに弱いわけでもないのに気のせいにはできないレベルに胸が騒ぐのはどうしてだろう?

(要先生といると調子が狂う。面談時間は最低限で十分ね)

 そんなふうにMRらしからぬことを考えるのもすべて、彼にペースを乱されるせいだ。

 いくつかの確認事項を話し終えると、環はそそくさとテーブルの上に置いた資料やタブレットを片づけはじめる。

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