この恋、温め直しますか? ~鉄仮面ドクターの愛は不器用で重い~
「じゃあ私はそろそろ。コーヒー、ごちそうさまでした。カップはどこに持っていけばいいでしょうか」

 自分のぶんだけでなく彼のカップにも手を伸ばしたけれど、その手を包みこむように彼の大きな手が重なる。

また胸がドクンと跳ね、環は慌てて手を引いた。

「俺が片づけておくから気にしなくていい」

 申し訳ない気もするが最近は昔と違ってMRが好き勝手に医局に出入りすることはできない。

 環は素直に頭をさげた。

「では、お願いします」

「あぁ。次に来るときはロパネストラーゼの例のデータを持ってきてくれないか? うちの教授も気にしていたから」

「はい。またご連絡させていただきますね」

 環個人への感情はともかく、自分の仕事ぶりはある程度信用してもらえたようだ。

 ドクターのほうから次回の話を切り出してもらえるのはMRとしては光栄なこと。

 環はこのあと別の科にも顔を出す予定があったので、自然と途中まで高史郎と並んで歩くことになった。

「要先生、ちょっといいかい?」

 脳神経外科の医局の手前で、高史郎が四十代後半くらいと思われる恰幅のいいドクターに声をかけられた。

「瀬田准教授、なにか?」
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