この恋、温め直しますか? ~鉄仮面ドクターの愛は不器用で重い~
 医師の世界は軍隊にも似た階級社会で、ヒエラルキーの頂点は教授。その下に准教授、講師、助教と続いている。

 なので瀬田と呼ばれた彼は高史郎の上司に当たる人物だ。

 環も名前は認識していて何度かあいさつにうかがったが、彼は多忙なようで名刺を渡す機会はまだ得られていなかった。 

 近づいてきた瀬田が環の存在に気がついてこちらにも視線を送ってよこす。品定めをするような、あまり感じのよろしくない目つきだ。

「見かけない顔だね」

「彼女はアスティー製薬のMRです。今年度からの新しい担当で」

 高史郎が紹介してくれたことで環はようやく彼にあいさつする機会を得られた。

「速水環と申します。脳神経外科を担当させていただくことになりました」

「ふぅ~ん」

 環の名刺を受け取った瀬田の眼差しはますます不躾になっていく。歯に衣着せずに言ってしまえば、完全にセクハラ親父のそれだ。

「最近の女性MRはどうも華がないよねぇ。もっと女性らしい服装でもしてくればいいのに」
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