この恋、温め直しますか? ~鉄仮面ドクターの愛は不器用で重い~
 ほかの人間なら嫌みにしかならない台詞だが、見るからに堅物でどこか浮世離れしたところのある高史郎が発すると純粋な質問のようにも聞こえる。

「不勉強な私には理解できないのでご教授願えますか」

 高史郎の圧に瀬田がひるんでいる。その様子に環はこっそり口元を緩めた。

「じょ、冗談だよ、ちょっとしたジョーク。要先生はもう少しユーモアを学んだほうがいいんじゃないか」 

「申し訳ありません、自分はそういった方面には疎いので」

 瀬田の相手をしながら、高史郎は後ろ手で「今のうちに帰れ」と環に示した。

 結局、彼に助けられる形で環は瀬田の魔の手から逃れた。

 予定のアポをすべて終え、病院の自動ドアから外に出ると、心地のよい春風が環の黒髪をなびかせた。

 今日はいい天気で空は美しく澄み渡っている。

(また、助けてもらっちゃったな)

 学生のときも今日のように彼に助けられたことがあった。

(他人に興味ないって顔をしてるけど、意外と正義感が強いんだよね)

 ――そういう彼が『不感症』なんて本当に言ったのだろうか? なにかの間違いだったのでは?

 これまで何度も何度も頭をよぎったことのある疑問が、また環の思考を占拠する。
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