この恋、温め直しますか? ~鉄仮面ドクターの愛は不器用で重い~
 きちんと話をして確かめるべきだったのかもしれない。そう思ったのも一度ではない。

〝でも校舎が分かれて偶然会うこともなくなった。電話やメールは……返事をもらえない気がするし〟

〝卒業しちゃったし、彼はもう私の名前なんて忘れているはず〟

 そのたびに〝今さら〟と自分の臆病さを正当化してきた。

(そうやって逃げ続けて気がつけば十年か。本当に〝今さら〟になっちゃったな)

 あのとききちんと確かめていれば、まったく違う未来が開けていたのだろうか。

 環はふっと自嘲して、心に浮かんだ未練を断ち切るように大きく一歩を踏み出した。

「速水チーフ。講演会当日の役割分担、確認をお願いできますか?」

 チームのメンバーから渡された資料にサッと目を通し環はうなずく。

「ありがとう、問題ないと思うわ」

 製薬会社は研究、勉強を目的とした各種セミナーを定期的に開催する。

 最先端医療に関する勉強会、自社薬品の説明会、著名な医師を招いての講演会など名称は様々だが、たいていは医師や薬剤師との情報交換や親睦を目的としていた。

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