この恋、温め直しますか? ~鉄仮面ドクターの愛は不器用で重い~
 今週の金曜日にも緑邦大病院の准教授に『脳梗塞の後遺症』をテーマに講演してもらう予定になっている。

 そのあとは自由参加だがささやかな慰労会の場も設けてあった。

 接待に厳しくなった昨今では、MRがドクターに顔と名前を覚えてもらう貴重な機会にもなっている。

 招くのが緑邦大病院のドクターなので今回の講演会の準備は環たちがメイン担当として動いている。

「今回講演してくれる瀬田准教授……僕、実はちょっと苦手なんですよね」

 彼は声をひそめておどけたように肩をすくめた。

 先日、環に不躾な眼差しを送ってよこした准教授の瀬田、今回の講演会に当たり社内の色々な人間から話を聞く機会があったのだがとにかく評判が悪い。

『男にはパワハラ、女にはセクハラ。ドクターにもMRにも嫌われてるわね』

『とにかく自分が一番偉いと思ってる先生ですよ。機嫌を損ねないよう気をつけてくださいね』

 あがってくるのはそんな噂ばかりでいい話はひとつも耳に入ってこなかった。

 だが、准教授としては若いほうなので腕は確かなのだろう。もしくは医局内の出世競争だけがやたらと上手だったのか。
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