この恋、温め直しますか? ~鉄仮面ドクターの愛は不器用で重い~
 環自身も彼にいい感情は抱いていないが緑邦大病院のチーフとしてそれを顔に出すわけにもいかない。

「脳神経外科の分野では立派な実績を残している先生よ。きっといい講演になるわ。ただ……もしなにかトラブルがあればそのときは遠慮なく相談して」

 パワハラを受けたら報告してくれ、をオブラートに包んで彼に伝えた。

「ありがとうございます、そう言ってもらえると心強いです」

 通常の業務にプラスして講演会の準備。でも忙しい毎日の充実感は嫌いじゃない。

 カタカタとPCを叩いている環のもとに「ただ今、戻りました」というどこか沈んだ声が届く。

 席を外していた彩芽がフロアに帰ってきたようだ。

 あきらかに元気がなくシュンとしている。

(なにかあったのかな? そういえば今日は派遣会社との面談だと言っていたっけ?)

 彩芽は派遣社員として環たち緑邦大病院チームの経理や事務作業をサポートしてくれている。

 なので日々の業務に関しては環が彼女の上司に当たるのだけれど、彩芽の所属はあくまでも派遣会社だ。

 数か月に一度は派遣会社のコーディネーターがやってきて面談をしている様子だった。
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