この恋、温め直しますか? ~鉄仮面ドクターの愛は不器用で重い~
 営業職である以上、成績を出すことは大切。でも、この仕事はそれだけを追い求めてはダメだ。

 苦しんでいる人に必要な薬を届ける、その使命を決して忘れてはいけないと環は思っている。なぜならその矜持こそが、苦しいとき、つらいときに自分を励ましてくれる力になるからだ。

 製薬業界を取り巻く環境はここ十年ほどで大きく変化した。

 創薬分野でいえば、かつてはどこのメーカーも風邪や糖尿病など数が売れる薬のシェアをどう拡大していくかという点に重きを置いていた。だが現在は、癌や難病などのまだ治療法が確率されていない分野で高度かつ個別化された新薬をいかにして開発していくか……それが生き残りの鍵になっている。

 さらに、環たちMRに求められるものも変わった。以前はやや過剰と思われる接待をしてでも医師に気に入られることが最重要だったが、今はそうではない。というより、そのやり方はもう通用しなくなった。

「けど、最近は本当に面談してくれないドクターが増えてきましたよね」

 ひとりのぼやきに全員が賛同する。
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