この恋、温め直しますか? ~鉄仮面ドクターの愛は不器用で重い~
 そんな声に顔をあげると、今日の主賓である瀬田がそこにいた。

 ゴルフでもするのかよく日に焼けた浅黒い肌にこってりとした濃い顔立ち。大きな目がギラッとした光を放っている。

 お腹は少し出ているけれど肥満というほどではなく、四十代半ばという実年齢より若々しく見える。

「瀬田准教授、本日は素晴らしい講演をありがとうございました」

 今日の講演には心から感謝しているので先日の不躾な眼差しは水に流して、環は彼に笑顔を向けた。

「ははっ、アスティーさんのロパネストラーゼには我々も期待しているんだよ」

「ありがとうございます。脳梗塞の患者さんの希望になる薬だと自負しておりますので」

「あぁ。うちが採用すればほかの病院でも一気に広まるだろうね」

 医師の世界というのは想像以上の縦社会で、独立して開業医となった先生方も出身の医局との繋がりは大切にしているもの。

 国立大学の附属病院である緑邦大病院の影響力は非常に大きい。それはアスティー製薬としても重々承知、環たちの仕事ぶりがロパネストラーゼの命運を握っているといっても過言ではないのだ。

「つまりさ……」

 ふいに瀬田が距離を詰めてきた。彼の手が環の肩に回る。
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