この恋、温め直しますか? ~鉄仮面ドクターの愛は不器用で重い~
「私に気に入られることがどれだけ大事か……わかるだろう?」

 ねっとりとした手つきで彼が肩をさする。

 眼差しは先日よりさらにセクハラじみていて口元はニヤニヤと緩んでいた。その顔を見れば彼がなにを求めているのか、よ~く理解できる。

(せっかく講演が素晴らしいと見直したのに)

 この言動で環の彼への評価は地に落ちた。とはいえ、大人なのでここで怒ったり泣いたりするつもりはない。

 製薬会社も病院もまだまだ男性社会。悲しいけれどこの手のトラブルはよくあることだ。

(恋愛はてんでダメなのにセクハラ対応だけは手慣れていくなんて……皮肉すぎる)

 はぁと肩を落とし、環は口を開こうとした。ところが――。

「瀬田准教授」

 環よりひと足先に誰かが瀬田を呼んだ。振り向かなくても声だけで誰かわかってしまった。

「院長がお呼びですよ。ぜひ瀬田准教授の意見が聞きたいとのことで」

 涼しい顔をした高史郎が瀬田にそう話しかける。

「なに、院長が私に?」

 瀬田は顔色を変え、嬉々として駆けていった。院長は医師のヒエラルキーの頂点に君臨する人物。気に入られたくて仕方がないのだろう。

「ありがとうございます、助かりました」
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