この恋、温め直しますか? ~鉄仮面ドクターの愛は不器用で重い~
「あぁ、そうだな。飯はうまい」

 中央の細長いテーブルの上にはパーティーにふさわしい華やかなオードブルが並んでいる。

「ローストビーフが評判なんですよ。もしよかったら――」

 取ってきましょうか? そう言いかけた環を遮って高史郎が言う。

「その前にひとつ聞きたいんだが……」
「え?」

「君はなぜ〝さっきからずっと〟俺を見ていたんだ?」

 想定外のカウンターパンチを食らい、環は「うっ」と言葉に詰まる。どれだけ思考を巡らせてもうまい言い訳は思いつかない。

「み、見ていません」

「見ていなければ、俺がどんな顔をしているかなどわからないだろう」

「ぐぬぬ……」

 思わず漫画みたいなうなり声をあげると彼はこらえきれないといった様子でククッと笑い声をこぼした。

「わ、笑わないでください」

「先に人を笑ったのは君だ」

 そのとおりなのでますます言い返せない。環はくるりと踵を返し、背中で告げる。

「ローストビーフ、取ってきます!」

 人の波をぬって中央のテーブルへと向かう。

 一歩前に進むごとに、自分の頬がどんどん熱を帯びていくことに気がついていた。
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