恋人同盟〜モテる二人のこじらせ恋愛事情〜【書籍化】
「氷室くん!?」
「めぐ……」
ドアを開けて入って来た弦は、めぐを見るなり動きを止めた。
「めぐ、どうした?なんで泣いてる?」
「え、あの、これは別に」
うつむいて必死に涙を拭っていると、弦は駆け寄って来て顔を覗き込む。
「目が真っ赤だ。随分泣いただろ?何があった?」
「あの、だからこれは。えっと、そう!痛くて、ちょっと」
「足の怪我?見せて」
「いや、ギプスで固定されてるから」
「ああ、そうか。痛み止めの薬とかない?」
「飲むほどじゃないから、大丈夫」
「そんなに泣いてるのに?」
うっ、とめぐは言葉に詰まる。
「ほんとに大した痛みじゃないの。なんか少し、心細くなっただけ。みんなお仕事どうしてるかなーって思って。氷室くん、ごめんね。色々と迷惑かけちゃって。様子見に来てくれたの?」
取り繕うように一気にしゃべると、弦はやおらめぐの前にひざまずいた。
「めぐのパソコンを持って来たんだ。ここで仕事がしやすいように。けど、その前に話をさせてほしい」
「うん、何?」
真剣な表情の弦に、めぐも居住まいを正す。
「めぐ、ごめん。俺、恋人同盟を解消したいっていきなり言い出して、めぐのことを散々振り回してしまった。突然のことでめぐは気持ちがついていかなかったと思う。本当に悪かった」
「ううん、そもそもどちらかに好きな人が出来るまでの関係だったもん。分かってたことだし、氷室くんは何も悪くないよ」
「違うんだ。俺、自分の気持ちをごまかしてた」
「え?どういうこと?」
「それを今からめぐに伝えたい。言えばまためぐの気持ちをかき乱してしまうと思う。それでも言わせてほしい」
一体、何を?とめぐは戸惑いつつも頷いた。
「恋人同盟を解消する時、俺、好きな人が出来たって言ったよな?だけどあの時は嘘だったんだ。本当はめぐに、恋愛をして幸せになってほしいから解消を申し出た。俺とつき合ってるフリをしていたら、いつまで経ってもめぐは誰からも声をかけられない。俺がめぐの恋愛を邪魔してるんだってようやく気づいたんだ。だからこの関係を終わらせなきゃと思ってそう言った。だけど……、めぐと離れてみて初めて分かった。俺はめぐのことが誰よりも好きだ」
めぐはハッと目を見開く。
どういうことなのかと、まじまじと弦を見つめた。
「俺の身勝手でまためぐを困惑させてしまうと分かってる。本当にごめん。だけどめぐ、この気持ちに嘘は微塵もない。俺はめぐのことを心から想っている。もう2度とめぐを手放したりしない。どうかずっと、俺のそばにいてほしい」
信じられない気持ちでめぐはじっと弦の言葉を聞いていた。
何を言われているのか、どういう状況なのか、まるで頭がついていかない。
嬉しいのか悲しいのか、全く自分の感情が実感出来なかった。
「……めぐ?」
心配そうに弦が顔を覗き込んでくる。
めぐは考えがまとまらないまま口を開いた。
「ごめん、氷室くん。私、何も考えられない」
「……そうだよな、ごめん。全部俺のせいだ。すぐに返事がほしいとは思ってない。めぐの気持ちが落ち着いてからゆっくり考えてくれて構わない。本当は今めぐを一人にしたくない。けど……、俺はいない方がいいよな?」
「うん、ごめん。少し一人にさせて」
「分かった。でも何かあったらいつでも連絡してくれ」
そう言われてもすぐには頷けない。
これまでよりももっと連絡しづらくなってしまった。
「あの、しばらく一人で考えさせて。仕事に関しては公私混同せずに、ちゃんと連絡しますから」
「……分かった。じゃあ、これ」
弦はめぐのパソコンをテーブルに置くと、しばらくその場に立ち尽くす。
「……ほんとに自分が情けない。誰よりもめぐを守りたいのに、今の俺ではそばにいる資格もない。こんなに不安そうで、今にも泣き出しそうなめぐに触れる資格もない。ごめんな」
そう言うと迷いを振り切るように、弦はめぐに背を向けて部屋を出て行った。
「めぐ……」
ドアを開けて入って来た弦は、めぐを見るなり動きを止めた。
「めぐ、どうした?なんで泣いてる?」
「え、あの、これは別に」
うつむいて必死に涙を拭っていると、弦は駆け寄って来て顔を覗き込む。
「目が真っ赤だ。随分泣いただろ?何があった?」
「あの、だからこれは。えっと、そう!痛くて、ちょっと」
「足の怪我?見せて」
「いや、ギプスで固定されてるから」
「ああ、そうか。痛み止めの薬とかない?」
「飲むほどじゃないから、大丈夫」
「そんなに泣いてるのに?」
うっ、とめぐは言葉に詰まる。
「ほんとに大した痛みじゃないの。なんか少し、心細くなっただけ。みんなお仕事どうしてるかなーって思って。氷室くん、ごめんね。色々と迷惑かけちゃって。様子見に来てくれたの?」
取り繕うように一気にしゃべると、弦はやおらめぐの前にひざまずいた。
「めぐのパソコンを持って来たんだ。ここで仕事がしやすいように。けど、その前に話をさせてほしい」
「うん、何?」
真剣な表情の弦に、めぐも居住まいを正す。
「めぐ、ごめん。俺、恋人同盟を解消したいっていきなり言い出して、めぐのことを散々振り回してしまった。突然のことでめぐは気持ちがついていかなかったと思う。本当に悪かった」
「ううん、そもそもどちらかに好きな人が出来るまでの関係だったもん。分かってたことだし、氷室くんは何も悪くないよ」
「違うんだ。俺、自分の気持ちをごまかしてた」
「え?どういうこと?」
「それを今からめぐに伝えたい。言えばまためぐの気持ちをかき乱してしまうと思う。それでも言わせてほしい」
一体、何を?とめぐは戸惑いつつも頷いた。
「恋人同盟を解消する時、俺、好きな人が出来たって言ったよな?だけどあの時は嘘だったんだ。本当はめぐに、恋愛をして幸せになってほしいから解消を申し出た。俺とつき合ってるフリをしていたら、いつまで経ってもめぐは誰からも声をかけられない。俺がめぐの恋愛を邪魔してるんだってようやく気づいたんだ。だからこの関係を終わらせなきゃと思ってそう言った。だけど……、めぐと離れてみて初めて分かった。俺はめぐのことが誰よりも好きだ」
めぐはハッと目を見開く。
どういうことなのかと、まじまじと弦を見つめた。
「俺の身勝手でまためぐを困惑させてしまうと分かってる。本当にごめん。だけどめぐ、この気持ちに嘘は微塵もない。俺はめぐのことを心から想っている。もう2度とめぐを手放したりしない。どうかずっと、俺のそばにいてほしい」
信じられない気持ちでめぐはじっと弦の言葉を聞いていた。
何を言われているのか、どういう状況なのか、まるで頭がついていかない。
嬉しいのか悲しいのか、全く自分の感情が実感出来なかった。
「……めぐ?」
心配そうに弦が顔を覗き込んでくる。
めぐは考えがまとまらないまま口を開いた。
「ごめん、氷室くん。私、何も考えられない」
「……そうだよな、ごめん。全部俺のせいだ。すぐに返事がほしいとは思ってない。めぐの気持ちが落ち着いてからゆっくり考えてくれて構わない。本当は今めぐを一人にしたくない。けど……、俺はいない方がいいよな?」
「うん、ごめん。少し一人にさせて」
「分かった。でも何かあったらいつでも連絡してくれ」
そう言われてもすぐには頷けない。
これまでよりももっと連絡しづらくなってしまった。
「あの、しばらく一人で考えさせて。仕事に関しては公私混同せずに、ちゃんと連絡しますから」
「……分かった。じゃあ、これ」
弦はめぐのパソコンをテーブルに置くと、しばらくその場に立ち尽くす。
「……ほんとに自分が情けない。誰よりもめぐを守りたいのに、今の俺ではそばにいる資格もない。こんなに不安そうで、今にも泣き出しそうなめぐに触れる資格もない。ごめんな」
そう言うと迷いを振り切るように、弦はめぐに背を向けて部屋を出て行った。