恋人同盟〜モテる二人のこじらせ恋愛事情〜【書籍化】
「雪村さーん!お届け物でーす!」

夜の7時半に玄関から環奈の声が聞こえてきて、めぐは思わず笑い出す。

「はーい、環奈ちゃん。今開けるね」

ドアを開けると、環奈は大きなエコバッグを抱えていた。

「わっ、すごい荷物ね。重いでしょ?」

受け取ろうとすると、「あー、だめだめ!」と環奈が身をよじる。

「雪村さん、怪我してるんですよ?持っちゃだめ!はい、ソファに座ってて」

環奈は靴を脱ぐと早速キッチンに立ち、買って来た惣菜をお皿に載せてローテーブルに運んだ。

「こんなにたくさん買って来てくれたの?仕事上がりに大変だったでしょ。気を遣わないでって氷室くんに伝えてもらったのに……」
「それが氷室さんに頼まれたんです。すぐ下まで一緒に来てたんですよ、氷室さん」

えっ?とめぐは驚く。

「ここに?」
「そうです。スーパーで手当り次第に食材買い込んでここまで持って来て、私に託して帰って行きました」
「……そうだったの」

うつむくめぐに、環奈はため息をつく。

「ほんとにもう、こじれまくりですよね。ラブラブカップルがコジコジカップルになっちゃった」
「うん、どうしてこうなっちゃったんだろうね。友達だった頃に戻りたい」
「恋人じゃなくて友達に、ですか?」
「そう。だってあの頃すごく楽しかったから。恋愛とかややこしいこと考えないで済んだし」
「雪村さん、恋愛はややこしくないですよ?」
「ややこしいよ。今の私にとったら、ややこし過ぎて悩みの種でしかないもん」

ふう、と環奈は大きく息をつく。

「幸せって人それぞれですね。私なんて恋愛はずっとご無沙汰だから、告白されただけで舞い上がっちゃうけどなあ」

なんと答えていいのか分からず、めぐは視線を落とす。
贅沢な悩みだと言われれば返す言葉がない。
それでもどうしても、明るく割り切ることが出来なかった。

「私が一番望んでるのは、雪村さんの幸せですからね?氷室さんを選んでも長谷部さんを選んでも、なんならどっちも選ばなくても、私は雪村さんが決めたことが一番だと思います。自分の本心が分かるといいですね」
「……私の、本心?」
「そう。素直な気持ちです」
「素直な気持ち……。今の私は、氷室くんと友達に戻りたいの」
「なるほど。それならそう伝えてみてもいいと思いますよ?氷室さんに」

えっ、とめぐは顔を上げて環奈を見る。

「いいの?そう伝えても。告白の返事にはならないのに?」
「私はいいと思います。避けられるよりは、今の気持ちを伝えてほしいって思うから」
「そう、かな。うん。そうだね。私、氷室くんに話してみる」
「はい。応援してます」
「ありがとう、環奈ちゃん」

めぐはようやく笑顔を浮かべた。
< 69 / 144 >

この作品をシェア

pagetop