君の心に触れる時

前向き




病院のリハビリ室には、柔らかな陽光が差し込んでいた。春香はその窓際の椅子に座り、静かに外の景色を見つめている。

冬の冷たい風が木々を揺らし、葉の隙間から小鳥たちが飛び交うのが見えた。蓮が隣に座り、慎重に声をかけた。

「調子はどうだ?」

春香は微かに微笑んで答える。
「うん…悪くないよ。リハビリも、少しずつ慣れてきた。」

その言葉に蓮は安堵の表情を浮かべたが、内心の不安は拭いきれなかった。
春香の容態は安定しつつあるものの、移植をしない限り本当に安心できる状態ではない。
そして春香自身、その現実に気づいているはずだった。






その日の夜、蓮は春香の病室を訪れた。

病室の灯りは暖かい橙色に灯っており、春香はベッドの上で本を読んでいた。蓮が入ると、彼女は顔を上げて微笑んだ。

「蓮、また遅くまで仕事してたの?」

「まぁな。お前が頑張ってるから、俺もサボれないだろ。」

蓮は冗談めかして笑ったが、その笑みの裏に隠れた重い心境を春香は見逃さなかった。

「蓮…何か隠してるでしょ?」

 春香は本を閉じ、じっと彼を見つめた。その瞳には、蓮を問い詰める強い意志が宿っていた。

蓮は一瞬だけ目を逸らし、それから深く息を吐いて春香の前の椅子に腰を下ろした。

「…隠してたわけじゃない。ただ、お前にどう言えばいいか、ずっと悩んでた。」

春香は何かを察したように蓮を見つめた。

「移植の話?」

蓮は頷き、真剣な表情で話し始めた。

「正直、今のままではお前の体は持たない。薬やリハビリで時間を稼ぐことはできても、それだけじゃ限界がある。」

「それはわかってる。でも…」

春香は声を詰まらせた。彼女の中で、移植手術への恐怖と、生きることへの希望が激しく葛藤していた。

「お前が怖いのはわかる。だけど…俺はお前を失いたくない。春香、お願いだ。一緒にこの先の道を考えよう。」


蓮はそう言って、春香の手をそっと握った。
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