君の心に触れる時


春香の移植手術に向けた準備が始まったのは、彼女が手術を受けることを決意してから数ヵ月後のことだった。



ドナー確保の報せが届いたのは、夜も更けた午前2時だった。電話越しの声は確かに希望を告げていたが、その裏に刻一刻と迫る時間の重みがのしかかっていた。

「ドナーが見つかった。移植手術の準備を始める。」


その一報を受け、蓮は急ぎ春香の病室へと向かった。だが、病室に近づくにつれて、胸騒ぎが止まらなかった。

扉を開けた瞬間、静まり返った病室に響く機械の警告音が彼を迎えた。




春香はベッドの上で苦しそうに息をしていた。
彼女の額に浮かぶ冷や汗と唇の青白さが、命の危機を物語っている。


「春香!」

蓮は駆け寄り、彼女の肩に手を置いた。
春香は目を開けたが、視線はぼんやりとしていて焦点が合わない。唇を震わせながら、かすれた声で言った。

「蓮…苦しいよ…もう限界なのかな…?」


その言葉を聞いた瞬間、蓮の心は締め付けられた。
医者としての冷静さを保とうとしても、愛する人が命の灯を消そうとしている現実が頭を揺さぶる。


「春香、そんなこと言うな!お前はまだ終わりじゃない。俺が絶対に助ける!」

しかし、その言葉に反応するように、モニターが異常を示し始めた。

「血圧が危険域に低下しています!酸素飽和度も落ちています!」

看護師が叫ぶ中、春香の身体が突然痙攣を起こした。


「心停止!緊急処置を!」
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