君の心に触れる時
蓮はすぐに処置を始めようとしたが、震える手が彼の動きを止めた。

その瞬間、智己が駆け込んできた。

「蓮、どけ!お前じゃダメだ!」

智己は冷たい声で蓮を突き放し、的確な指示を飛ばした。

「アドレナリンを1mg、除細動の準備を!」

「俺がやる!」

蓮は食い下がったが、智己は蓮の肩を掴み、力強く叫んだ。

「蓮、お前は彼女を愛している!そんな状態で冷静に対処できるわけがない!」

智己の言葉に蓮は動きを止め、拳を握りしめた。
彼は医者としてのプライドと、愛する人への想いの狭間で押しつぶされそうだった。

「お前がミスをしたら春香は助からない。だから俺がやる。」

智己の冷静な処置の末、モニターに微かな心拍が戻る。




「…蓮…」

春香が微かな声で名前を呼んだ。蓮はすぐに彼女の手を握りしめた。

「春香、俺がここにいる。もう少しだけ頑張れ!」

春香は涙を浮かべながら、震える声で呟いた。

「…怖いよ…。これ以上、耐えられる自信がない…。」

その言葉に蓮の心は激しく揺れた。
彼女の弱音に寄り添うべきなのか、励ますべきなのか、自分でも分からなくなっていた。

「俺を信じてくれ…お願いだから。」蓮の声は震えていた。

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