君の心に触れる時
手術室の中は、冷たく張り詰めた空気に包まれていた。
春香は麻酔によって眠りについたが、その顔はどこか安らぎよりも疲労感を物語っているようだった。

「心拍は不安定だが、手術には耐えられる。」

麻酔科医が蓮に伝えた。

「分かった。急ごう。春香の身体がこれ以上耐えられなくなる前に終わらせる。」

蓮の声は固く冷静だったが、その奥には深い決意が宿っていた。

「ドナー心臓の状態は?」

 蓮が尋ねると、智己が低い声で答えた。

「良好だ。だが時間との勝負だ。慎重に、しかし迅速にな。」

蓮はメスを手に取り、一瞬だけ目を閉じた。そして、自らに誓うように心の中で呟いた。

「俺が春香を救う。何があっても。」







手術が開始してから2時間が経過した。
手順通り進んでいるはずだったが、突然、アラーム音が鳴り響く。

「血圧が急激に低下!心拍数も危険域です!」

看護師の声に、蓮の動きが一瞬止まる。しかし、すぐに智己が声を上げた。

「出血箇所を特定しろ!内圧が高まっている可能性がある!」

「ここだ…!」

蓮は慎重に手を動かし、大量の出血を引き起こしていた血管を発見した。だが、血液が止まる気配はない。

「出血量が多い!これ以上は持たないぞ!」

麻酔科医が警告する。

「縫合を試みるが、もし血圧がさらに落ちれば…」

蓮の声は僅かに震えていた。
智己が冷静に指示を飛ばす。

「蓮、集中しろ。お前が焦ったら終わりだ。お前ならできる!」

蓮は深呼吸をし、視線を鋭くして縫合を再開した。
血液を止めるための処置が的確に行われ、モニターがようやく安定を示す波形を描き始めた。

「…助かったのか…?」

看護師たちの安堵の声が漏れる中、蓮は再び作業を進めた。
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