君の心に触れる時
春香の心臓を取り出し、新しいドナー心臓を移植する段階になった時、またしても事態が急変する。

「心臓が反応しない!再始動がうまくいかない!」

人工心肺装置に繋がれた春香の身体は、新しい心臓を受け入れる準備が整ったはずだったが、ドナー心臓が動き出す気配がなかった。

「なんで動かないんだ…!」

蓮の声が焦りに満ちる。智己も眉をひそめ、モニターを凝視している。

「再び除細動を!」

智己が指示を飛ばし、看護師がすぐに準備をする。

「ショック、いくぞ!」

電流が心臓を刺激するが、再び心拍は戻らない。

「もう一度だ!負荷を上げろ!」

蓮は声を張り上げた。だが、次のショックでも心臓は動かない。




春香の身体が冷たくなり始める感触が、蓮の手に伝わってくる。
その瞬間、彼はこれまで抑えてきた感情が堰を切ったように溢れ出した。

「春香、目を覚ませ…!俺がどれだけお前を助けたいと思っているか、分かってくれ!だから、ここで終わらせるな…頼む…!」

手術室の中に響く蓮の叫びに、智己も一瞬だけ言葉を失った。

「蓮、まだ終わっちゃいない。」

智己が静かに言った。
「諦めるのは最後の手段だ。それがお前が選んだ道だろ?」

蓮は深く息を吸い込み、震える手をもう一度落ち着かせた。

「最後のショックだ。それでもダメなら…」

智己は短く頷き、看護師が再び除細動器を準備する。




「ショック、いくぞ!」

最後の電流が心臓を刺激した瞬間、モニターに波形が現れた。

「心拍、戻りました!」

看護師が叫ぶと、全員が息を飲んだ。

蓮は春香の手を握りしめながら、安堵と共に目を閉じた。


「春香…ありがとう…」










手術は無事に終了した。
春香はまだ意識を取り戻していないが、その顔にはかつての苦しみの影が消え、安らかな表情が浮かんでいた。

「蓮、お前…よくやったな。」

智己が肩を叩きながら微笑む。

「いや、彼女が頑張ったんだ。」

蓮は答えながら、春香の顔を見つめた。

「これからだ。俺たちの未来は、これから始まるんだ。」

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