君の心に触れる時


翌朝、春香は早くに目を覚ました。病院の独特な静けさが、心を落ち着けるどころか、逆に不安を募らせる。

「治療を受けるかどうかは私が決める……」

そう繰り返し自分に言い聞かせながらも、蓮の「未来を選ぶための時間」という言葉が頭を離れなかった。

そんな中、病室のドアが開き、見慣れた顔が飛び込んできた。

「春香!大丈夫?!」

春香の親友であり唯一の理解者である千佳だった。千佳はバッグをベッドの横に置くと、息を切らしながら彼女の手を握った。

「もう、本当にびっくりしたんだから!昨日、病院に運ばれたって聞いて、心臓止まるかと思った!」

「……千佳、大げさだよ。ちょっと倒れただけだから。」

春香は気丈に振る舞おうと笑みを作ったが、千佳は眉をひそめる。

「ちょっとじゃ済まないでしょ。お医者さんから聞いたよ。心臓の状態、かなり悪いって。」

その言葉に春香はハッとした。

「え……先生から、何か言われたの?」

「そうよ。昨日来てくれた先生、すっごく厳しい感じだったけど、あなたがこのままだと危ないって。手術を真剣に考えるべきだって言ってたわ。」

千佳の言葉を聞きながら、春香の中に再び蓮への反発心が湧いてくる。

「あの人、本当に余計なことを……!」

「余計なこと?春香、命の話よ?どうしてそんなに強がるの?」

千佳の真剣な声に、春香は言葉を詰まらせた。

「私は、普通に生きたいだけなんだよ。普通の生活を、普通に……病気のことなんて気にしないで……」

春香の声は次第に弱くなり、最後には涙声に変わった。千佳はその肩にそっと手を置き、優しく言った。

「普通に生きたいなら、まずは生きなきゃダメでしょ。」

その言葉が胸に刺さり、春香は黙り込んだ。
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