君の心に触れる時
☆春香side☆

その頃、春香は深い意識の底にいた。どこか夢の中のような世界で、ぼんやりと暖かな光を感じていた。

「ここ…どこだろう…?」

遠くで、誰かの声が聞こえる。それは蓮の声だった。必死に名前を呼び続ける声が、春香の胸を締め付ける。

「蓮…泣いてるの…?」

足元には深い暗闇が広がっていた。その暗闇に引き込まれそうになりながらも、春香はお腹に手を当てた。

「私…守らなきゃいけないんだよね…この子も…蓮も…」

春香はかすかな光に向かって手を伸ばそうとするが、その力はすぐに失われ、また深い闇に沈みそうになる。

☆☆☆☆



蓮は顔を歪ませながら、手術室のドアの前で震えていた。智己が静かに告げる。

「お前はどうする?俺たち医師は最善を尽くす。でも、夫として、父親として、お前はどうしたい?」

蓮の頭の中で、春香との思い出が走馬灯のように蘇る。命の危機を乗り越えてきた彼女の笑顔、そしてお腹を愛おしそうに撫でる姿。

「…俺は…!」

蓮は拳を握りしめ、覚悟を決めたように智己を見た。
「両方、絶対に助けてくれ…!」

智己は静かに頷き、再び集中治療室の中へと消えていった。
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