君の心に触れる時
病院に到着した春香はすぐに集中治療室に運び込まれる。
蓮もその場で治療に加わろうとするが、智己に肩を掴まれ制止される。

「蓮、落ち着け。お前がこの状態で入ったら冷静でいられるわけがない。」

「でも…!」

蓮は叫びかけるが、智己の厳しい目を見て、ようやく理性を取り戻す。

「分かった…頼む、絶対に助けてくれ…!」

集中治療室のランプが点灯する中、蓮は廊下で頭を抱え、震える声で春香の無事を祈り続けた。


集中治療室の中、医師や看護師たちが息をつく間もなく動き続けていた。
春香の心拍は低下し、不規則な波形がモニターに映し出されている。さらに問題だったのは、お腹の中の赤ちゃんにもその影響が及び始めていたことだった。

「胎児の心拍数が落ちている!」

看護師が緊迫した声で報告する。
「母体が持ち直さなければ、どちらも危険だ!」

担当医は即座に判断を下す。
「彼女の体を安定させつつ、帝王切開の準備を進めろ。母体か胎児、どちらを優先するかの判断を求められる可能性がある。」

病室の空気は張り詰めていた。


集中治療室のランプの下、蓮は震える手で髪をかきむしるようにしてうつむいていた。  
彼の頭には、智己に言われた

「医師である前に、夫として向き合え」
という言葉が繰り返し響いていた。

だが、今の状況はどうだろう?医師としての知識が頭を支配し、夫としてただ祈るだけではいけないのではないかと自問していた。

ふいに智己が手術室から出てきた。
蓮はすぐに彼に詰め寄る。

「どうだ!?春香は…赤ちゃんは無事なのか?」

智己の顔は険しかった。
「どちらも危険だ。お前も分かってるだろう。心臓が限界に達してる。彼女の命を優先するなら手術を進めるしかない。でもその場合、胎児に影響が出る可能性がある。」

蓮の視界がぐらりと揺れた。選択を迫られる状況に、胸が押しつぶされそうになる。
「そんな…選べなんて言うのか…春香と俺の赤ちゃんを…」
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