君の心に触れる時
その夜、春香は赤ちゃんを抱えながら穏やかな時間を過ごしていた。
しかし、蓮が仕事から帰宅すると、春香はソファに寄りかかりながらうつらうつらと眠っていた。
「春香、無理するなって言っただろ。」
蓮は苦笑しながら、赤ちゃんを受け取ろうと手を伸ばした。しかし、その瞬間、春香の体がぐらりと傾き、腕の中から赤ちゃんが滑り落ちそうになる。
「春香!」
蓮は慌てて赤ちゃんを受け止め、春香の肩を揺さぶった。
「だ、大丈夫…。」
春香は目を開けようとするが、その瞳は焦点が合わず、顔は青白い。呼吸も浅く、胸を押さえた手が震えている。
「しっかりして!どこが痛い?」
蓮の問いかけに、春香は震える声で答える。
「胸が…締めつけられるように、痛い…。」
蓮は彼女の脈を取ったが、弱く不規則な鼓動が指先に伝わってきた。
「これはまずい…。すぐに病院だ。」
蓮は赤ちゃんをそばに置き、急いで救急車を呼ぼうとスマートフォンを手に取る。
しかし、春香がかすれた声で彼の腕を掴む。
「蓮…お願い、私より、この子を…」
「春香、お前を見捨てるなんて絶対にしない。赤ちゃんも俺が守る。だから、頼むから今は力を抜いて俺に任せて。」
蓮は近くの友人に電話をかけ、赤ちゃんを預かってもらうよう手配を済ませる。
「持ちこたえてくれ…春香。」
智己が病院に待機していたことで、蓮はすぐに春香を搬送する手筈を整える。
だが、病院へ向かう救急車の中で、春香は意識を失いかける。
「春香、しっかり!春香!」
彼女の名前を呼び続ける蓮の声も、耳には届いていないようだった。
救急車の中で心電図の警報音が鳴り響き、智己が即座に処置を始める。
「蓮、頼むから冷静になれ!」
智己の声で我に返り、蓮は医師としての役割を思い出す。彼女の命をつなぎ止めるため、二人は全力で手を尽くした。