君の心に触れる時
春香が搬送されてきた病院の緊急治療室。
蓮と智己は、あらゆる手を尽くして春香を救おうとしていたが、容体は悪化の一途をたどっていた。

心電図の音が不規則になり、最初は穏やかなリズムだったものが急激に乱れ始める。

「まずい!心臓の反応が悪化してる!」

智己は冷静に指示を出し、胸部圧迫を続けながら、薬を投与する準備をする。

「蓮、手伝ってくれ!もっと圧迫を強く!」

智己の声に蓮は顔を引き締め、春香の胸部を激しく押し続けた。鼓動を取り戻すために、何度も何度も繰り返す。

「春香!お前は俺と約束したんだろ!」

蓮の声が涙ぐみながら響く。春香は反応がない。
心臓が鼓動を休めたかのように感じられ、蓮の手のひらに冷たい汗が滲む。

春香の体はもう限界に近づいている。智己は緊迫した表情で薬の投与を続けるが、心臓の鼓動はやはり戻らない。

「心停止だ…」

智己は言葉を続けるが、その顔に見せることのできない焦燥感が浮かんでいた。

「頼む…」

蓮は心から叫んでいた。だが、その叫びが春香には届かないようで、彼女の表情はますます青白くなり、意識も薄れていく。

「蓮、冷静に!まだやれることがあるはずだ!」

智己が怒鳴るように言ったその瞬間、蓮の腕に震えが走る。

「冷静に…なんて…!お前はわかってるのか!?春香が…!」

蓮の声は震えていた。彼の目に映る春香の姿があまりにも無力で、絶望的に見えたからだ。

智己は蓮を睨みつける。
「お前が立ち止まるわけにはいかないだろ!お前の腕が頼りなんだ!医者としての仕事をしろ!」


「春香、俺の声が聞こえたら、少しでもいい、答えてくれ。」

その瞬間、心電図の警報が鳴り響き、蓮の頭が真っ白になる。
電極の先から伝わる信号が完全に途切れ、モニターの画面には「NO SIGNAL」と表示されている。

「春香、頼む…!目を開けてくれ!」

蓮の声は震え、目の前の春香に必死に呼びかける。

その時、春香の指先がかすかに動いた。ほんのわずかに、それでも、確かに。

「春香…!」

蓮は反射的に春香の顔を見つめ、彼女がまだ自分の声に応えられる可能性があることを信じて、もう一度圧迫を続ける。

そして、数秒後、春香の胸に再び微かな鼓動が戻り始める。

「…来た…」
智己が呟く。モニターに表示された数値が少しずつ回復していく。心拍数が戻り、呼吸が安定を見せ始める。


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