君の心に触れる時
「…春香…お前、頑張ったんだな。」

蓮は静かに呟き、彼女の手を強く握りしめた。
そして、春香の目がゆっくりと開かれ、ぼんやりとした視線で蓮を見つめる。

「…蓮?」

その言葉を聞いて、蓮は胸の奥からこみ上げるものを感じた。

「よかった…春香、よかった…。」
蓮は彼女を抱きしめ、涙を堪えることができなかった。

智己もほっとした表情を浮かべ、蓮に静かに言った。

「今は無理せず休ませろ。お前も疲れてるだろう。」








春香が回復の兆しを見せたものの、まだ完全には安心できなかった。
次の日、意識を取り戻した春香は、蓮と一緒に病室で向き合っていた。

「蓮…」

春香はゆっくりと顔を上げ、蓮を見つめる。

「私、もうこれ以上は無理だよ。」

「春香…」
蓮は驚き、春香の手を握る。

「ごめんね、こんなこと言って…でも、これ以上苦しむのも怖いの。」

春香の目には涙が溢れ始める。
「赤ちゃんのために、少しでも多くの時間を過ごしたい。そのために…私、もう治療は続けたくない。」

蓮は言葉を失うが、春香の目に宿る決意に気づく。
「わかる…でも、春香、俺はお前を絶対に失いたくない。」

蓮は深い悔しさと共にそう言ったが、春香の手をそっと押さえた。

「蓮、ありがとう…でも、私は幸せだった。今、赤ちゃんを育てられて、本当に幸せだった。」
春香は弱々しく笑うが、その笑顔はどこか切なかった。
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