君の心に触れる時
数日間、春香は病室で蓮と過ごす時間が増えていた。毎日のように顔を合わせ、会話を交わすうちに、彼女は次第に蓮に対して心を開き始めていた。最初はただの医者と患者の関係だったが、今ではその距離がどこか微妙に縮まっていることを感じていた。
ある晩、春香は病室で窓の外を見つめながら、心の中で葛藤していた。治療を受けるべきか、それとも逃げるべきか。迷いが深まる中、蓮がドアをノックし、静かに入ってきた。
「春香、少し話してもいいか?」
その一言に、春香はふと顔を上げた。蓮の目にはいつもの冷静さの中に、何か真剣なものが宿っている。
「もちろん。」
春香は頷き、ベッドの上に座り直した。
蓮は彼女の目の前に座り、少しの沈黙が流れた後、ゆっくりと口を開く。
「君に言いたいことがある。」
春香はその言葉に少し驚き、蓮を見つめた。
「何?」
「実は、君と過ごす時間がとても大切だと思っている。」
春香はその言葉に一瞬戸惑うが、蓮の真剣な目を見つめるうちに、心の中で何かが温かくなるのを感じた。
「私も…蓮と過ごす時間、嫌いじゃない。」
春香は静かに答える。
「嫌いじゃない?」蓮が微笑みながら言う。
「うん。」
春香は恥ずかしそうに顔を赤らめながらも、強く頷いた。
「でも、あなたと私、医者と患者だよ?」
蓮は少し間を置き、深呼吸をしてから言った。
「だからこそ、言いたいんだ。俺は君を支えたい。君がどんな決断を下しても、俺は君の味方でいる。」
その言葉に、春香は心を揺さぶられた。蓮の目に込められた強い意志と、彼女を守りたいという気持ちが伝わってきたからだ。
「でも…どうして?」春香は戸惑いながら尋ねた。
「君を医者としてだけではなく、君自身を大切に思っているからだ。」
蓮は静かに言った。
その言葉に、春香の胸は締め付けられるような感覚に包まれた。少しの沈黙が二人の間に流れた後、蓮は少し顔を近づけ、優しく言った。
「春香、俺は君が好きだ。」
その一言が、春香の心を完全に掴んだ。長い間感じていた不安や孤独が少しずつ溶けていくような、温かい気持ちが心に広がっていく。
「私も…蓮が好き。」
春香は小さな声で答えた。その言葉は、彼女の胸の奥から自然と湧き上がった気持ちだった。
蓮は少し驚いたように目を見開いたが、すぐに微笑んで春香の手を握った。
「ありがとう。これからも一緒にいる時間を大切にしたい。」
その言葉に、春香はうなずいた。初めて心から安心したような気がした。彼女は蓮の手を握り返し、優しく微笑んだ。
「私も、一緒にいたい。」
その日から、二人はただの医者と患者ではなく、互いに支え合う存在となった。